

「仙介(せんすけ)」は、神戸市東灘区・御影郷に蔵を構える泉酒造の銘柄。宝暦年間(1756年)創業の老舗ながら、阪神淡路大震災で蔵が被災し一時は自家醸造を中断、近年に復活を遂げたという背景を持つ。今回の「純米吟醸 山田錦」は、兵庫県産山田錦を100%使い精米歩合60%で仕込んだ一本。グラスに注ぐと淡く澄んだ色合いで、灘の蔵としては香りに表情があり、復活蔵らしい現代的な造りの気配が最初から伝わってくる。
香りは穏やかながら華やかさもある含み香で、メロンや洋梨を思わせる軽い吟醸香がうっすら立つ。派手に立ち上がるタイプではなく、嗅いだあとに料理を呼ぶ程度の上品な香り立ちで、純米吟醸として香りと食中性のバランスを丁寧に取った設計だと丸山は受け取った。冷やすと香りが締まり、温度が上がると米の旨みが顔を出す、温度で表情の動く一本だ。
味わいは、山田錦由来の柔らかな旨みが舌に乗り、甘辛のバランスは中庸。日本酒度は±0前後とされ、辛口にも甘口にも振りすぎない平衡の取れた構成だ。酸度1.5前後の酸が後口を引き締め、純米吟醸らしいなめらかな口当たりのあとにすっとキレる。丹波杜氏の技で米の旨みを引き出すという蔵の方針どおり、旨みに厚みがありながら重さは感じさせない。冷酒(10〜13℃)で香りとキレを楽しむのが基本だが、常温に近づけると旨みがふくらみ、表情の幅を見せる。
ペアリングは繊細な和食が中心になる。白身魚の刺身、焼き魚、天ぷら(塩)、出汁巻き卵といった淡い味付けの料理に、この酒の上品な吟醸香と柔らかな旨みがよく寄り添う。香りの強すぎる料理は吟醸香を消してしまうので、出汁を効かせた和の一皿と合わせるのが仙介の正解だと考える。
価格は720mlでおおむね1,800〜2,400円(実勢)。純米吟醸としては手に取りやすい価格帯で、山田錦100%・精米歩合60%という素性を踏まえれば納得感がある。流通は特約店中心で量は多くないが、震災を乗り越えて自家醸造を復活させた灘の蔵の今を知るうえで、丁寧に造られた一本として推せる純米吟醸だ。