

「酒造りの神様」と称される杜氏・農口尚彦が小松市に構えた農口尚彦研究所。北陸産の五百万石を65%まで磨き、山廃仕込みで醸した無濾過生原酒を編集部で試した。長年の山廃を究めた造り手の現在地を映す一本だ。
栓を抜くと、まずオレンジやかぼすを思わせる柑橘の甘酸っぱい香りが立ち、その奥に山廃らしい乳酸由来の複雑なニュアンスが潜む。色はわずかに山吹がかり、無濾過生原酒の力強さが見た目にも表れる。
ひと口含むと、アルコール19度の厚みのある旨みがぐっと押し寄せる。山廃由来の酸が骨格を作り、クリーミーなコクと熟れた果実味が中盤で重なる。甘みは旨みに溶け込み、後半は酸とほろ苦さで引き締まって切れる。生原酒らしい飲みごたえがあり、一杯で満足度が高い。よく冷やして輪郭を引き締めても、常温寄りでコクを開かせても表情が変わり、温度で遊べる。
ペアリングは濃い味の料理が真価を引き出す。ブリ大根や牛すじの味噌煮込み、鴨ロースといった脂とコクのある料理に、山廃の酸がよく拮抗する。熟成チーズと合わせても面白い。淡白な刺身には酒が勝ちすぎる。
四合瓶で2,500〜3,500円ほどと相応の価格だが、名杜氏が手がける山廃の濃醇さを体験する価値は十分。要冷蔵の生原酒として、開けたその日から数日の味の変化も楽しみたい一本。