

民話の里として知られる遠野で、日本酒とクラフトビールの両方を醸す上閉伊酒造。その上級酒「國華の薫」純米大吟醸は、地元の遠野小町シリーズとは一線を画す、贈答にも耐えるフラッグシップだ。遠野という土地の素朴なイメージとは対照的な、磨き抜かれた一本を予想しながら栓を抜いた。
山田錦を精米歩合40%まで磨いたこの酒は、グラスに注いだ瞬間から華やかな吟醸香が立ち上がる。メロンや白桃を思わせる果実香が明確で、純米大吟醸らしい上品な甘みが口中に広がる。日本酒度-1.6のやや甘口寄りの設計だが、酸度1.3が後半をきれいに整えるため、甘さがくどく残らない。香り・甘み・余韻のバランスが高い次元でまとまっている。
冷酒(8〜12℃)で開く香りが最も美しく、温度が上がると米の旨みが顔を出してまた別の魅力を見せる。ただ華やかさを楽しむなら冷たい状態を保つのがいい。アルコール16度ながら口当たりはなめらかで、力みのない飲み口は最後の一杯まで疲れさせない。
ペアリングは香りを生かす方向で考えたい。白身魚のカルパッチョ、フルーツ、フレンチの前菜、湯豆腐といった淡い味付けの料理に寄り添う。香りの強い料理や脂の多い肴と合わせると、せっかくの繊細な吟醸香が消えてしまうので避けたい。
四合瓶で3,000円前後という価格は、純米大吟醸としては標準的だが、遠野の小さな蔵が放つ完成度を考えれば納得できる。特別な日や手土産にふさわしい華やかさを備えた一本。岩手の純米大吟醸の選択肢として、覚えておく価値がある。