

灘の老舗・菊正宗酒造が、生酛造りの伝統を体現するブランド「嘉宝蔵」。その「雅」は、兵庫県産山田錦を精米歩合65%で仕込んだ特別純米酒だ。菊正宗といえば辛口の代名詞だが、編集部として向き合ってみると、単に切れるだけでない、生酛由来の厚みがしっかり同居していることに気づかされる。
香りは控えめで、乳酸を思わせるわずかな酸の気配と、米の落ち着いた香りが立つ。一口含むと、日本酒度+6・アルコール17度らしい力強い旨みが押し寄せ、その後に生酛らしい複雑な酸が追いかけてくる。辛口だが痩せておらず、旨みのボリュームと鋭いキレが両立しているのがこの酒の核心だ。
味の重心はしっかりめで、はっきりとした辛口。冷やすとシャープさが際立ち、ぬる燗から熱燗にすると旨みと酸がふくらみ、燗酒として一気に化ける。むしろ温めてこそ本領を発揮するタイプで、40〜50℃あたりの幅広い燗温度に応える懐の深さがある。
ペアリングは、味の濃い料理や脂を受け止める力がある。すき焼きや鰻の蒲焼、牛すじの煮込みといった甘辛い味付けに、この酒の辛さと酸がよく効く。脂のある焼き魚を熱燗で流すのも相性が良い。
四合瓶で2,000円前後。淡麗で華やかな現代的吟醸とは対極にある、骨太な生酛辛口だ。流行を追わず菊正宗の芯を貫いた一本で、燗酒派や、料理に負けない酒を探している人には強く勧められる。