

石川県加賀市、白山の伏流水で知られる鹿野酒造の「常きげん 山廃純米」。地元契約栽培の加賀五百万石を65%まで磨き、山廃仕込みで醸す定番酒だ。アルコール16.5度とやや高め、日本酒度+3のやや辛口で、四合瓶1,500〜1,700円という手の届く価格帯。山廃の旨みとキレを日常に持ち込める一本として試した。
グラスからの香りは穏やかで、山廃由来の乳酸的な含み香と、炒った穀物やナッツのニュアンスがうっすら漂う。派手さはない。一口含むと、五百万石の旨みがしっかり乗り、山廃らしい厚みのある酸が骨格を作る。中盤で旨みがふくらみ、後半はやや辛口の設計どおりすっと引いていく。「どっしりした飲み口に鋭い切れ味」という蔵の説明がそのまま味に出ている。
真価が出るのは温度を上げたとき。冷酒(10〜13℃)では酸がやや前に出て締まった印象だが、ぬる燗(45〜50℃)にすると旨みと酸がほどけて一体になり、燗映えする。熱燗(55℃)でも香りが暴れず、米の旨みが太く感じられる。山廃×燗の教科書的な良さがある。
ペアリングは、味の濃い煮込みや出汁もの。ぶり大根、おでん、鴨鍋、きんぴらなど、塩気と旨みのある料理と山廃の酸が共鳴する。脂のある料理の後口もこの酸が流してくれる。
香りで売る現代的な酒とは方向性が逆で、温度と料理で表情を変える「実用の山廃」。価格を考えれば燗酒の常備銘柄として十分に推せる一本だった。