
ちえびじんは、大分県杵築市の中野酒造が醸す純米酒。精米歩合70%という日常酒らしいスペックでありながら、グラスに注ぐと雑味のない澄んだ印象が先に立つ。第一印象は「やわらかくてきれい」。派手さで押してくる酒ではなく、最初の一口からするりと体に入ってくる素直さがある。海沿いの町の蔵らしく、肩肘を張らずに毎日寄り添ってくれそうな佇まいの一本だと感じた。
香りは穏やかで、炊きたての米や薄く蜜を思わせる甘い含み香が中心。吟醸系のメロンや洋梨といった華やかさはなく、鼻を近づけて初めて立ち上がるくらいの控えめさだ。香りで主張しないぶん、料理の香りを邪魔しない。編集部としては、この「香りで前に出ない」設計こそが、ちえびじんを食中酒として推せる理由のひとつだと考えている。
味わいの軸は、やさしい甘みと、それを後ろから支える軽やかな酸。70%精米とは思えないなめらかな口当たりで、甘旨がふわりと広がったあと、酸が輪郭を整えてすっと収まる。重さやくどさは残らない。温度帯は冷やしすぎず10〜15℃あたりが心地よく、常温に近づけると甘旨に厚みが出て表情が和らぐ。ぬる燗(40℃前後)にすると米の旨みがふくらみ、また違う顔を見せてくれる懐の深さもある。
ペアリングは食卓の主役より脇に置きたいタイプ。白身魚の刺身、鶏の塩焼き、だし巻き卵、薄味の煮物といった、出汁や素材の甘みを生かした家庭の和食と素直に重なる。酸がほどよくあるので、揚げ物や少し脂のある料理を口直しのように受け止めてくれるのも便利だ。香りで勝負する酒ではないぶん、料理を選ばず一食を通して付き合える。
価格は四合瓶で実勢おおむね1,500〜2,200円。この蔵はフランスのKURA MASTER 2018で純米酒部門の最高賞(プレジデント賞)に選ばれた実績があり、評価される土台のある造り手だ(出典: 中野酒造公式サイト)。とはいえ受賞の冠より、編集長としては「価格に対する飲み飽きしなさ」を推したい。華やかな一本を特別な日に開けるのとは別軸で、平日の食卓に常備しておきたい現実的な良酒。日本酒度や酸度は流通ロットで多少振れるため、ここでは公開情報を基にした代表的な値として記載している。